HELLO WORLD 映画ノベライズ みらい文庫版 (集英社みらい文庫)

HELLO WORLD 映画ノベライズ みらい文庫版 (集英社みらい文庫)の詳細

2019年9月20日に公開された同名3DCGアニメ映画の、映画に先行して発売されたノベライズ版……は2冊ありまして、このみらい文庫版の他にも、映画の脚本を手掛けた小説家・野崎まど先生による集英社文庫版が発売されています。で、何が違うのかと言うと……作者が違うので、文章が違います（！） どちらもストーリーの内容は映画に準じていて、あらすじだけ見れば同じ話なのですが、同じ原作を別の小説家がそれぞれノベライズしているので、作家性の部分で違いが出ます。みらい文庫は児童向けレーベルということもあり、全ての漢字に振り仮名が振ってあったりと、小中学生向けに書かれています。もう一方の集英社文庫版が映画の原作者である野崎まど先生によって書かれ、映画では削られて原作者でしか知り得ない内容も盛り込まれているのに対し、こちらは本の厚みは同程度ながら、1ページ辺りの文字数が少なく紙も厚いため文章量が少なめ。とは言え、こちらの方も単なる劣化版という訳ではなく、内容をシェイプアップして本筋を分かりやすく際立たせて、ジュブナイルSFとしてきっちり仕立て直されているように感じました。場面によっては集英社文庫版より映画の内容に近い、あるいはより詳しかったりする部分もあり、例えば物語冒頭で描写された赤いオーロラへの言及が中盤で主人公の決断を後押しする根拠となるという伏線の使い方や、中盤で明かされる世界の秘密をマトリョーシカ人形に例える説明の分かりやすさ、直実が先生を兄のように思っていたのと同様に先生もまた直実を弟のように思っていたという対比、クライマックスにおける先生の最期の場面の心理描写、ラストシーンのどんでん返しで明かされる世界の情景描写……といった集英社文庫版にはなかった描写は、明快で分かりやすく秀逸に感じました。映画の内容が難解すぎて分からなかったという方や、あまり小説を読む習慣がないというような方には、こちらの方が分かりやすくて良いと思いますし、映画版を気に入って深くハマった人なら、ストーリーの内容をより深く理解するために、集英社文庫版と両方買って読むというのもアリだと思います。ちなみにストーリーや出来事の順序はだいたい同じなので、気分次第でザッピングしながら一方の続きをもう一方で読み進めるという読み方も一応可能です。